エッセイ |
思いつくままに…
12月22日 子どものための邦楽クリスマスコンサート
今年の年末、12月22日 (日)の午後1時30分より、紀尾井小ホールにて
'子どものための邦楽クリスマスコンサート'と題して演奏会を催します。
演目は、四世杵屋佐吉作曲「酔猩々」、芙蓉曲二題と、僕の「みにくいあひるの子」、「とっきっき」です。
僕の生き甲斐、最後の演奏会をかねがね、この紀尾井小ホールにて、催したいと思っておりました。
と、申しますのは、紀尾井小ホールが出来る時のことをお話しします。
朝日新聞のお正月(1994年か5年)のコラムに新日鐡がホールを作ることが書いてありました。偶然にも、当時の新日鐵の社長さんである齋藤 裕氏に、今藤家元の新年会でお目にかかり、新聞で読んだそのホールは邦楽が演奏できるようなホールですか?と伺うと、多目的ホールではないというお話でした。邦楽が演奏出来るようなホールが併設出来ないかと伺ったところ、暫く沈黙の後、「考えましょう」と仰って下さいました。そして、一週間後に、日本橋の本社に来て下さい、というお話をいただいたのです。
人の縁なども加わって、齋藤社長の唄の師匠今藤尚之氏も加わってお話し合いをしました。
舞台美術家の朝倉 摂先生がデザインを担当、音響 永田 穂氏等一流の人が集まってコンパクトながら、美しく贅沢な素敵なホールが出来上がりました。
客席が少ないとか、残響が短いなど、問題点がありましたが、色々な人の知恵を集めて、客席の壁を布から木に変更するとか、舞台の天井、反響板をしつらえるなど、いまでは、音の面でも、邦楽に適した品の良いホールに育ってきました。
僕は、そんな縁の深いホールなので、来年、演奏会を開こうと思っていましたが、来年には改装改築に入ってしまうかもしれないと思い、急遽、本年中に、ということで,12月22日に開催することになりました。
では、何故「みにくいあひるの子」を上演することにしたかというと、
昭和40年くらいには、僕らの分野、伝統芸能(特に長唄)は、子どもを意識した作品はほとんどなかったということ。
伝統芸能と子ども、ということになると、学校の音楽のカリキュラムを見るとヨーロッパの音楽や作曲家が列記してあって、その中に、宮城道雄先生のお名前が1人あるだけでした。
恐らく、子ども達は、日本音楽に触れることも、学ぶこともあまりなかったと思います。
僕は、その頃住んでいた家の近くの渋谷区立千駄谷小学校に、矢も楯もたまらず飛び込みました。そして、音楽の先生に、談じ込みました。子ども達が、日本の音楽を聴いた上で面白くないというなら仕方がない、一回も聴かないで、つまらないものと判断されるのは困る、それを許すのは、僕等の怠慢であるとさえ思いました。僕らの仲間である今は亡き杉昌郎さんにも応援を頼みました。
幸いなことに、音楽の先生は、赴任して一年目の松浦先生。先生も僕等の話に感動してくれて、校長先生に頼んで、年に一回午前中の授業を全部潰して、長唄「越後獅子」、箏曲「春の海」、そして,杉昌郎さんのお話を聴く機会を作ってくれました。
唄が今藤長之さん、今藤美知、坂田初音さん、坂田友音さん、三味線が今藤政太郎、杵屋巳太郎(後の淨貢)さん、坂田早苗(現今藤長十郎)さん、杵家弥佑(現弥七)さんだったと思います。御箏は、野坂恵子さん、尺八は、山口五郎さん等々のメンバーでした。渋谷区内の他の小学校からの依頼も来ました。尚、喜ばしいことに、毎年6月には、渋谷区の公会堂で区内の学校の子どもさん達を対象に演奏会を持てることになったのです。演目も助六太鼓も招くようになり、充実していました。
僕等は、学校の音楽の教課として、カリキュラムに取り入れられるように運動するのが、重要な目的であると思っていましたから、渋谷区ばかりでなく、都内の学校ばかりでなく、日本全国に広がっていくよう願っていましたから、その間にプログラムもマンネリにならないよう考えました。
その中で、昭和41年、坂東流の若い舞踊家の梢さんという方から、邦楽で、子どものための音楽劇が出来ないものかと相談され、それを杉昌郎さんに依頼し、僕が作曲したものを、人形劇に仕立て上げることを思いつきました。棒っきれの先にウレタンの人形をつけて、録音した音源に合わせて動かすのです。坂東佳津さんと愛さんに依頼して、上演しました。
子どもたちは、大喜びでした。それが、「みにくいあひるの子」です。
「みにくいあひるの子」は、今や長唄協会の大事な活動となっている学校巡回の、はしりのような時期に生まれました。(尚、学校巡回については、稿を改めてきちんと書きたいと思っております)
二人の舞踊家さんだけでは手が足りないので、僕たち演奏家も人形を動かしました。舞踊家さんたちの操る人形はちゃんとそれらしく動くのに、僕たち演奏家は虫や草を遣うのがせいぜいで、あまりの違いに感心したものでした。
今回、クリスマスに近い日に演奏会を行うことから、アンデルセン童話をもとにしたこの「みにくいあひるの子」を取り上げようと思い至りました。これまでYouTubeで公開したり、NHKの「にっぽんの芸能」で演奏して影絵のかかし座さんとコラボレーションさせてもらったりしたことはありますが、生の舞台で聴いていただくのは初めてです。
話があちこち行きましたが、とにかく、次世代に良い音楽を残し、更に我々も耳の肥えた子ども達に充分応えられるようにすることが、僕の人生の大目標です。
紀尾井小ホールをご自分の人生を賭してまで造って下さった新日鐵の故 齋藤 裕会長に感謝しながら―
|